長い長い一時限がようやく終わった。疲れ果てた。
さて……どうしようか。
「そういえばまだだったな。千恵子に挨拶でもしていくか。保健室は、っと……」
徳田千恵子。生徒たちに何度「恋人なんですか?」と聞かれたことか。
気になるのも無理はない。なにしろあの美貌に肉体だ。
もう二年ほど会ってないが、生徒たちの言いようからするとまるで変わっていない……
それどころか、さらに磨きがかかっているようだ。
本当に、彼女が恋人だったらどれほど良かっただろう。
まあ、セックスは何度もしたけれど……
「おいおい、思い出しただけでコレかよ」
下腹部がムズムズする。
あの、まるで彼女にむさぼり食われるようなセックス。
ケダモノのように声をあげ、虫のようになまめかしくのたくり、
そのくせ、その切れ長の眼は、機械のように冷たく光り、
俺はまるで、彼女に解剖されているかのような気分になるのだった。
「実際、天才だったわけだからな」
外科・内科・精神科・産科・婦人科・泌尿器科。
なんでも来いのスーパーレディで。
その上、信じられない勢いで生理学だの解剖学だのの博士号を
まるで刈り取るようにモノにして。
研究室だのゼミだのを手当たり次第に荒らしまわって。
この人材を是非にと求める大学や研究所は列を成し。
ところが当人はプイと姿を消してはや二年。
「それがいきなり『保険医やってる。手伝いに来い』ときた」
あんな天才が、いつの間にか女学校の保険医になんてのも
とんでもない話だが……いったい俺に何をさせる気なんだろう?
「お〜い……千恵子、いるかぁ?」
とりあえず向こうのいいようにされてはたまらない。
俺はわざと無造作に、保健室の引き戸をガラリと開けた。
「千恵子?」
大して大きくもない病院の診察室といった感じの保健室。
グルリと見渡してみたが誰の姿もない。
千恵子も、さっき具合が悪いと言って教室を出て行った女の子も見当たらない。
「あっ……ん……んっ……」
……ん?
部屋の一方がカーテンで仕切られているのは、多分ベッドが二、三台並んでるのだろう。
その、淡い色の薄いカーテンがユラリ、かすかに揺れたような気がした。
「どう? 気持ちいい?」
「はい……あっ……いい……とっても、いいです……」
「悪い子ね……まちこちゃんって。授業中に、がまんできなくなっちゃうなんて」
千恵子の声だ。もう一人は、あの教室を出ていった子かな。
まちこちゃんって言うのか。まさかアレからずっと……
「みんな一所懸命勉強してるのに、あなたは恥ずかしいトコロをいじってもらって、
グチョグチョにして、いやらしい声上げてるのよ?
エッチなお汁を……ほおら、こんなに垂らして」
「……そんな……だって……」
そうだ……あいつは昔からうんと年下の女の子を可愛がるのが好きだった。
自分の腕の中で、少女がオンナになって行くのがたまらないって言ってたっけ。
「……先生……あたし……あたし……」
「ん? どうしたの……何か、言いたい事があるの?」
「……今日来たお医者さん……御米村まんじろうって」
「ああ……私の知り合いよ。ソレがどうしたの?」
「……恋人ですか?」
「あはは! まさかぁ……悪友というか、なんというか……
そうね、言ってみれば『同好の士』って所かな?」
……うまい事を言うなぁ。確かにおかしな事だけど、
あいつとオレの女の子の好みは何故かぴったり一致するのだ。
まちこちゃんは、それを千恵子に聞くために抜け出したのか。
しかし……千恵子とまちこちゃんの方こそどういう関係なんだ?
まあ、だいたい分かるけど。
「でもどうして? そんなのあなたには関係ない事でしょ?」
「イヤです……男となんか付き合わないで下さい! 男なんて……不潔です!」
「……ダメよ、そんな事言っちゃ……
あなたも、いつか素敵な男性とお付き合いして、セックスだってするんだから」
「あ……あたし、男の人となんて……しません! そんな事、しません!」
「そんなのダメ。
あなたが1人前の女性になるには、男の人に愛される事も覚えなくちゃ」
影が映らないようにしゃがみこみ、そっとカーテンの端を指先で小さく開く。
ちょうど、千恵子の細い指が、まちこの股間にゆっくりと伸ばされたところだった。
さんざんいじられていたのだろう。
淡い影のような陰毛が蜜にまみれてキラキラ光り、
白い滑らかなふくらみは、こすられてピンク色に火照っている。
「……ほら……ね……ココに、おちん○んを入れてもらうの。分かるでしょ?」
興奮し火照っていても、ひだを細く覗かせる程度の、幼い割れ目。
それを、千恵子の指先が静かになぞる。
シワ一つない愛らしい花びらの間にチラリと光る、ツヤツヤの粘膜。
千恵子の指が、小さな入り口を撫でている。
「あ……イヤ! おちん○んなんて。
汚くて臭くて黒くて毛がモジャモジャで、先っぽから汁とか出るんでしょ?
気持ち悪い……そんなの……イヤ! 絶対イヤ!」
……おいおい……今にも泣き出しそうだぞ。
「じゃあここがこんなにビチョビチョなのはなぜ? まちこちゃんのおま○こ、
おちん○んをしゃぶりたがって泣いてるわよ?」
千恵子の指の動きはいっそう激しくなる。まだ固い、つぼみのような####は、あふれた愛液でぼやけて見える。
「違います……違います。意地悪なこと、言わないでください……
あたしの事、嫌いになっちゃったんですか?
いつもみたいに、もう愛してくれないんですか?」
「だめ、泣かないで。違うの。私は、あなたに素敵な女の子になって欲しいのよ……
いろんな人と、自由に愛を交わせる素敵な女性にね」
千恵子は、まちこの粘膜を静かに撫でながら、もう片方の手で優しく髪をすく。
あらわになった桜貝みたいな耳たぶに唇を寄せ、
ほとんど吐息のようなささやきを吹きかける。
「あたしは……先生にさえ愛して頂ければ……いいえ、愛してくれなくてもいいんです!
時々、こうしてオモチャにしてもらえるだけで幸せ……」
「こら! そんな事、言うもんじゃありません。
私は、あなたをオモチャにしてるつもりはないわよ?」
まちこが頬に一しずくこぼした涙を、ちゅっ、と唇で吸って、
首筋に、髪に、何度もキスをしながら、千恵子はささやく続ける。
「精一杯、大切にしてるつもり……
だから、まちこちゃん、あなたも自分自身を大切にして。
私は、あなたが可愛いから、こうして……ね?」
千恵子の、真っ白な細く長い指が、じわじわと女の子の身体の中に沈んで行く。
「あっ……あああっ……う、うんっ! んんんっ!」
沈めた指を、ゆっくりとくねらせながら、もう片方の手で頭を抱き寄せ、
優しく髪を撫でながら何度もキスをする。
「ほら……とても素敵よ? 真っ赤な頬も……濡れた唇も……潤んだ瞳も……
分かるでしょ? 愛されるほど、女の子は綺麗になるのよ……」
千恵子は、既にまちこの身体を知り尽くしているようだ。
指が微妙にうごめくたび、小さな身体が子猫のように跳ねる。
「んっ! くっ……はっ、はっ、はっ、はあん!」
喘ぎ、悶え、今にもベッドから飛び出しそうになるまちこを、
千恵子はしっかりと抱きしめ、耳元にささやいた……
「ほら……イッちゃいなさい!」
「あっ……あっ……あっ……あんっ! うっあっあっ……」
まちこの顎がクッとのけぞり、細い喉がヒクヒク震える。
小さな身体が、千恵子の腕の中で大きく反り返った。
「あ、あ、ああああぁぁぁぁん!」
ふわり、と浮き上がったまちこの身体を、千恵子は思い切り抱きしめた。
「あ、あ……はぁ……はぁ……はぁ……」
こわばった少女の身体から、ゆっくりと力が抜けて、溶けるようにぐったりとなっても、
まだ千恵子は彼女を包み込むように抱き続けていた。
「ああ……せんせえ……」
「……満足した? 早く教室に帰りなさい。
もう仮病を使って授業中に抜け出したりしちゃダメよ」
ようやく潤んだ眼を細く開けたまちこに、千恵子はにっこりと微笑んだ。
まちこはそろそろと立ち上がる。脚に力が入らない様子。
あ、ヤバイ……出て来る!
「はい……それじゃ、失礼します」
間一髪のところで物陰に身を隠す。
もじもじしながら、ようやく身づくろいを済ませると、教室を出て行った時のように
フワーッとした足取りで保健室を出て行った。
まだボーッとしていたようで、なんとか見つからずに済んだが……
「……まんじろ! もう出て来てもいいわよ! 彼女は行っちゃったから」
「……何だ、ばれてたのか」
「あたりまえでしょ? あんなに鼻息荒くして……
幸い、あの子は気が付かなかったみたいだけどね。
いつあなたが理性を失って乱入してくるかと気が気じゃなかったわ」
「しないって。まったく……久しぶりの再開だというのにとんでもないな。
ま、相変わらず元気らしいってことでいいけどさ」
「はん、お互い様」
千恵子はニヤリと笑って、俺の胸にコツンと拳で叩くと、
事務椅子を回して音もなく腰掛ける。
俺が患者用の丸椅子に掛けると、ツイと脚を組んだ。
そのしぐさがやたらと色っぽい。
「ずうっと見てた?」
「いや、途中から。でも充分わかったよ……
キミが、どうして女学校の保健医になんかになったのか……」
「まあね。趣味と実益をかねて。
まんじろこそ、アッチコッチから声かかってたんでしょ?
私の次くらいに優秀だったんだから」
「まあね……」
「知ってるわよ? なりたかったんでしょ。女子校の保険医」
「なんで知ってる?」
「教員試験でスゴイ点取った奴がいるって、けっこうなウワサだったわよ。
しかも、その受験生が、性的嗜好が理由で落されたとなれば」
俺の身体を、上から下まで眺め回す千恵子の視線。
観察されてるのがはっきり分かる。隠そうともしていない。
「嗜好じゃない、知的興味と、医に携わる者の義務だ。
ただ、まだ世間に理解されていないってだけで。
分かってるだろ。千恵子の方が重症だと思うんだがな」
「まあね。
世間の先入観が、私にとっては有利に、あなたには不利に働いた。
そういうコト」
「しかし今では一国一城の主だぞ」
「セックス・セラピストねえ。どう? 上手く行ってる?」
要するに性の悩み専門の医者である。もちろん需要はある。
普通のセックス・セラピストは、ちゃんと患者も多く、治療の実績も多い。
だが、俺のクリニックはちょっと違うのだ。
なんといっても「実践的」なのだ。
「あー。正直、客はこない」
「日本じゃ、まだそういう職業の必要性って理解されてないのよね……」
千恵子はちょっと誤解してるかもしれない。でも訂正する必要もあるまい。
「実践的セックスセラピー」
単純な悩み相談なんかで済ませるわけには行かないと思ったのだ。
いざとなれば身体を張る。
さんざん千恵子に実験台にされたり、モルモットにされたり、観察対象にされたり
変な薬を飲まされるわ、妙な機械にかけられるわ、色々と酷い眼にあった。
それだけの苦労をした以上「実践的」の言葉は外せないのだ。
「ああ……閑古鳥が鳴いてるよ。
キミがこのバイト紹介してくれなきゃ、マジで飢え死にするとこだった。感謝してるよ」
「あは、そんなに言われると困っちゃうわ」
「いやぁ、ホントに。ここの生徒ってみんな可愛いし……」
「こら、ダメよ! 手当たり次第に手をつけたりしちゃ……」
「……え〜……」
「え〜、じゃないでしょ? あなたが何か問題を起こしたら、
私までクビになっちゃうかも知れないじゃない」
「そんなぁ……ずるいよ、自分はずいぶん楽しんでるくせに。
第一それじゃあ、どうしてオレを呼んだ訳?」
「まあまあ……話は最後まで聞いてちょうだい。とりあえず、これ見てくれる?」
それは、俺が一時間目に持っていったのと同じような黒い表紙の名簿だった。
ただ、ずいぶん薄い。
「ナニこれ」
「私特製の『秘密の生徒名簿』よ。この学校の可愛い女の子のリスト」
「……へぇ……」
パラパラとめくってみる。十人もいない。
しかし、写真や成績や身体測定の結果、得意科目やなにやらとやたら詳細だ。
性格や趣味や友人関係、生理周期だの、はては性感帯だのまで書いてある。
どうやって調べたのか。
「……どう?」
「みんな可愛いね……さすが、見る目があるというか。それでオレにどうしろって?」
「つまり、この子達に教えて上げて欲しいのよ」
「教える? 何を? まさか……」
「そ。『実践的な性教育』」
「だと思った……」
「セックスって、人間が1対1で、お互いをさらけ出してする事でしょ?
だから、自立した人間を育てるためには、正しい性教育って必要不可欠なのよ」
なんだか雲行きが怪しくなってきたような気がする。
千恵子の目が妙にキラキラ輝いてる。
「さっきの子だって、私は対等な女同士として愛しあいたいんだけど、
私のドレイになりたがって。甘えてるのよ。
そんな事じゃ、この先男の人ともうまく付き合って行けないでしょうからね……」
「ふむ」
「だから、ね……この娘達に経験させて上げて欲しいの。後のフォローは私がやるわ」
「……フォローって……」
「決まってるでしょ? 初めての体験に、
傷ついた仔鹿の様に戸惑い怯える女の子達を、私が優しく包んで上げるの」
「……ひょっとして、ソレが目的なんじゃない?」
千恵子は笑いながら、まるで洋画の登場人物のように両手を広げ、肩をすくめてみせた。
(つづく)